「心は自由なんだ。
どんな状況であっても、他の人がコントロールすることはできない。
自分の人生は、自分のものだからね。」
(ナザール 28歳)
旅の経由地アブダビ空港でのトランジットの待合所。
まだ暗い早朝に到着して、あと数時間。Wi-fIは通じるので、メールをいくつか返したり、パソコンでちょっとした作業をしていた。
パソコンのバッテリーがなくなってきて、電源のコードを預け荷物の中に入れてしまったことを後悔する。
ふと顔を見上げてみると、目の前に昇り立ての朝日が、飛行機の上に浮かんでいた。
買いたての一眼で写真を撮ってみる。なかなかうまく撮れない。
と、横に白髪のおじさんが座り、
「そのカメラは幾らするんだ?」と尋ねてきた。
その質問をキッカケに話し始めてみたら、インド人で、息子達がカタールで働いてるらしい。
その息子達はまさに目の前にいて、「コーヒーでも飲みに行こう」と誘われた。
時々、聞き取りにくい英語ではあったし、僕もたどたどしく話してはいたけれど、僕を気に入ってくれたらしく、「カタールに来たときは言えよ。案内するからな」と連絡先を交換した。
カタールで会計士をしている彼に、仕事のことを尋ねてみた。
「いろんな仕事をしてきたよ」と言ったが、本当に色々だった。
インドの大学で学んでいるときから仕事をし始めて、石運びの仕事も「大変だったけど、何だってするつもりだったから」と。
卒業後、6年半、セールスマーケティングという仕事。
そして、ボリウッド映画にも2本出ている。
そして、今はカタールで会計士というのだから、不思議な経歴だ。
「カタールの仕事も大変だよ。
最近は本当に寝れなかったんだ。
ほら、この目の下のクマ。ちょっと前までは無かったんだ。」
今回は兄弟の結婚式でインドに帰国する。
「僕はまだだよ。気になる子がいる。半年後には結婚するかもね」
その子との出逢いはフェイスブック、と言うけど本当なのかはわからない。
「たくさんの大変なことはある。
辛いこともある。
けど、僕はネガティヴにはならないんだ。前向きに考える。
心は他人が支配できないものだ。
自分の心は、自分だけのものだからね。」
彼らのフライトの時間が来て、僕は一人、1時間ほど出発が遅れているブリュッセル行きの飛行機を待つ。誰かと話すわけではなく。
出逢いは、いつも奇跡だ。